get back my heart(前編)



「アイシテル」 「スキ」
この5文字と2文字にどれだけの人間が惑わされてきたんだろう。
「永遠にアイシテル」 「誰よりもスキだ」 「君だけをアイシテル」.....


バカらしい。
俺は誰も愛せない。


「乾君、私あなたのことがスキなの...」
目の前の女はそうつぶやく。少しうつむいて。そして時折こちらの様子をうかがうように
上目遣いで。どこか自信に満ちた目で俺を見る。自信がないとこんな愛の告白なんて出来やしない。
...うんざりする。
「悪いんだけど...」
そう言って俺は当たり障りのない返事をした。あくまで傷つけないように。でも曖昧な言葉は選ばず、
はっきりと。
その女は泣きながら走り去ってしまった。

青学レギュラーだというだけで女はうざったいくらい寄ってくる。手塚や不二ほどではないが。
そして告白をしてくる女の大半が今の女のように「可愛らしい女」を作る。
うつむき、上目遣いで、涙で目を潤ませながら。あまりにみんな同じなので最近では
「告白マニュアル」でも出回っているのではないか、と思っている。
こうすれば告白に成功する。こうすれば彼の心をつかめる。
女はいつだって自分を作る。男に気に入られる為だけに。

俺は「愛」なんか信じやしない。




「海堂、ちょっと肩の力を抜いて。そしたらもっとシングルスコートに入りやすいよ」
「っス...」
レギュラーに戻ってもなお俺は部員のコーチ的存在だ。みんなのデータも取りやすいので、
俺はこのポジションが割と気に入っている。
「い〜ぬい!海堂だけじゃなくて俺のコーチもしてよ♪」
エージが俺の背中にのっかかってきた。そのそばで大石が苦笑しながら
「おいおいエージ。乾が困ってるだろ?」
と言っている。
「だ〜って乾ってば海堂ばっかりなんだもん!」
とエージがぷーっと頬を膨らませた。
俺は苦笑しながら
「そんなことないよ。な、海堂?」
と言って海堂の方を見た。そして少し驚いた。
あの海堂が顔を赤くしてうつむいているのだ。
「海堂...?」
その場にいた全員が海堂に注目した。
「え...いや、何でもないっす...」
そう言うが早いか、海堂は走り去ってしまった。

「何だったんだ...?」
俺が首をかしげていると、隣にいた黄金ペアが
「海堂は純情だにゃ〜」
「素直だな」
と仲良く顔を見合わせていた。俺には何のことかさっぱり分からず、
「さっきの海堂の態度の意味が分かったのか?」
と聞いた。すると黄金ペアは
「それは俺達が言うことじゃない」
と言って去ってしまった。
俺にはさっぱり意味が分からなかった。


「あ、おつかれっす...」
部活が終わり、部室でひとりメニューを組んでいると、自主トレを終えた海堂が入ってきた。
海堂は俺の顔を見るなりぱっと顔を伏せ、自分のロッカーへ向かった。
そして早々と着替えを済ませ、出て行こうとした。
俺はそんな俺を避けたような海堂の態度に少し腹を立てた。

「ねぇ海堂。海堂って俺のことが嫌いなの?」

思わず気持ちが言葉に出てしまった。でも自分の顔を見るなり顔を伏せられるなんて
あまりいい気持ちはしないから。
そんなことを思いながら海堂の返事を待っていた。

すると思いもよらないことが起こった。

海堂が泣いているのだ。あの海堂が。
俺は正直焦った。俺は海堂を泣かせるほどひどいことを言ったのだろうか。

「か...海堂?」
あわてて海堂のそばに近寄った。

「っく...ひっ...」
海堂は泣きながらひとつの言葉をつぶやいた。

「スキです...」

俺がもっとも信用していない言葉を。


その日はもう海堂がまともに会話できる状態ではなかったので、とりあえず帰らせた。
送ると言ったのに海堂は首を横に振り、走り去ってしまった。
俺も家に帰った。そしてゆっくり考えた。

(海堂が俺のことを好き...?)
どこか信じられない気持ちがあった。そして受け入れられない気持ちも。
別に同性愛に偏見があるわけじゃない。スキになれば男も女も関係ないから。
でもよりによって海堂が...
自分はてっきり嫌われていると思っていた。
でも今考えると、俺を避けるようなあの行動も伏せた顔も俺をスキだからこその行動だろう。
海堂の泣き顔も思わずつぶやいてしまった愛の告白もとても健気だと思う。

(スキです、か...)

くだらない...


次の日の部活。練習熱心な海堂は今日も来ていた。
明らかに俺を避けてはいるが。

練習はいつもどおり続けられ、そしていつもどおり終了した。

「じゃあ乾、鍵を頼むぞ」
大石に鍵を手渡され、
「ああ、分かったよ」
と鍵を受け取った。

1時間ほどして部室のドアが開いた。海堂だ。
俺を見ると心の底から気まずそうにしていた。
何も喋らず、俺を見ようともせず、海堂は着替えを終えて出ていこうとした。

「海堂」

俺の声にびくっと肩を震わせ、海堂は立ち止まった。

「昨日のことだけど」

俺は海堂のそばに近づき、海堂を自分の方へ向かせた。
「俺のこと好きなの?」
単刀直入に聞いた。
しばらくの沈黙が続いたあと、
「はい...」
海堂の肯定の返事が聞こえた。

「そう。じゃあ俺とどうなりたい?」
「え...?」
いきなりの質問に海堂は戸惑っていた。
「キス?それとも俺に抱かれたいの?」
海堂はかぁっと顔を赤くした。
「な...」
「だってそういうことでしょ?違う?」
海堂はまばたきもせず俺の方を見る。そして、
「分かりません...ただ、先輩が好きだってことが言いたかっただけなんです...」
と言った。

「ふふ...はははははは!」
俺は思いっきり笑った。俺のそんな行動に海堂は驚き、目を大きく見開いている。

「くだらないよ、海堂。俺をスキだなんて。スキとかアイシテルとかそんな言葉や感情ほどもろくて
くだらないものはないんだよ?お前がどの程度俺のことを好きかなんて知らないけど。ねぇ海堂...」

「気持ち悪いよ」

海堂はその場から走り去った。


走った。とにかくひたすら走った。早くひとりになりたかった。
気が狂ったように走り、やっと家に帰りついた頃には完全に息が上がっていた。

ばたん!!

乱暴にドアを閉め、鍵をかけた。
そして泣いた。涙が枯れるんじゃないかというくらい泣いた。

(やっぱり...スキだなんて言うんじゃなかった...)
頭の中は後悔でいっぱいだった。でも言ってしまったものは仕方がないのだ。
でも...
あのまま先輩後輩でいれば幸せだったのだろうか。
やはり同性である先輩を好きになることなど許されないのだろうか。
あんなに傷つけられなければいけないことなのだろうか。

そんな数々の疑問が頭の中を駆け巡った。答えは出ないのに。
そしてやがて俺は泣きつかれて眠ってしまった。

夢を見た。
俺は暗闇の中でさまよっているんだ。
するといきなり目の前に先輩が現れた。
一番会いたかった人。
暗闇でひとりきりだった俺に先輩は手を差し伸べてくれたんだ。
俺はうれしくてその手を取ろうとした。

でもその手は払いのけられた。
俺は驚いて先輩の顔を見た。
すると先輩は今まで見たこともないくらい冷たい顔で
「俺はお前の手なんか取らないよ」
と言い放った。

酷く残酷で。でもその夢は現実で。
先輩は俺に手を差し伸べてなんてくれない。俺の手を取ってなんてくれない。

ああ、でも...せめて...

せめて夢の中でぐらい...


愛してほしかったのに。


(あとがき)
2500hitのリクエスト小説です。つーかすいません...この先長くなりそうなので、とりあえず前編アップ。
後編は今週中にアップします。青様、中途半端で大変申し訳ありません!!この小説は青様、あなたのものです!
お気に召しましたでしょうか...?後編はこれよりもっとシリアスになる予定でございますので...

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送