「君綺麗だね」

「...サンキュ」

「いくらだい?」

「....」

「いくらでセックスさせてくれる?」























「いくらくれるんだ」






4.残酷な着信



時間がない。

時間がない。

急がないと。

止まってる時間はない。


いくらだ。

いくらで俺を買ってくれるんだ。



「中出しオッケーなら10万出すよ」



商談成立。

***

「んっ...はぁ...」


「はっ...はっ...」



跡部は近くの寂れたホテルで30分前までは存在すら知らなかったオヤジに抱かれていた。

快感など何も感じない。ただオヤジが満足するように声を出し、腰を振るだけ。


跡部の中にオヤジの欲望が放たれたのはそれからまもなくだった。






「はい、10万。すごくよかったよ。また...」


「次は20万だ」


跡部は万札を10枚ひったくると、ポケットにねじ込んでホテルを出た。

携帯番号を書いた紙をベッドに放り投げながら。


「俺を買うなら最低でも10万だ。それ以上出すって言うんなら値段次第でどんな要求にも応じてやる」


男はその紙を拾うと大切そうに高級そうな財布にしまった。


「...また電話するよ。明日にでもね」




跡部は男の気色悪い笑みにヘドを吐きそうになりながら部屋を出た。

***

「景ちゃんなんや最近痩せたんと違う?」


忍足への死の宣告から1ヶ月のことだった。跡部の部屋で久しぶりの穏やかな午後を過ごす。
今の跡部にとってはこのひとときがどれほど安らぐことか。


「気のせいだろ」


確かに異常なほど体重は減少していた。夜もろくに眠らず、食事をする時間さえ惜しい。
そんな生活をしていたら当然のことなのだが。


「ほんま?」

「...!」


忍足は心配そうに跡部を覗き込んだ。跡部はその視線を...真っ直ぐに受けとめることができなかった。
不自然に視線を逸らす。

心配などしないでくれ、と。
自分は汚れている、と。

不自然に逸らした視線の行方をどうしていいのか分からず、跡部は


「...茶淹れてくる」


そう言ってまた不自然に部屋を出た。























ピリリリリリリリリリリ....



部屋に無機質な携帯音が鳴り響いた。跡部は部屋の外に出ていてその音に気づく様子はない。


「あと...」

一応声をかけようとしたが、忍足は着信し続ける跡部の携帯を手に取った。

ディスプレイには番号以外何の表示もない。登録されていない人物からの電話か。


「...」

一向に鳴り止まない着信に忍足は一瞬戸惑いながらも、通話ボタンを押した。



「もしも...」




『ああ、跡部クン?やっと出てくれたね。ところでまた今夜会えるかな?今度はキス込みで20万でどうだい?』


忍足の思考は止まった。

電話の相手が誰なのかは分からない。でも...

その内容は否が応にも理解してしまった。



援助交際


忍足は静かに通話ボタンを切った。



そしてまた鳴り続ける携帯を横にその場にうずくまった。


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