200X年4月...
時代は進み、同性同士でも結婚ができるという素敵な法律案が可決された。
それまで同性愛に偏見を持っていた人達も法律で可決された事柄だけに、今までのように白い目で見ることはなくなっていた。
世の同性愛者達は手を上げて喜び、今や異性同士より同性同士の結婚の方が増えているくらいだった。
そしてここにも一人、手を上げて大喜びしている人物がいた...
「と言うことで海堂。結婚しようか。はい、ここに判押して」
乾貞治は中学時代から付き合っている1つ下の海堂薫に開口一番、そう言って婚姻届を差し出した。
「は...?」
居間でくつろいでいた海堂はいきなりの乾の言葉にワケが分からない、といった顔をし、思わず間抜けな声を出す。
「だからね、この前同性同士でも結婚できる制度になったじゃない?だから結婚するよ」
そう言っている間にも乾は海堂に早く婚姻届にサインをするように促している。
しかもいつも家にいる時はラフなジーンズなどが多い乾なのに、今はよそいき用のスーツを着込んでいる。
婚姻届を市役所に持っていく準備もバッチリである。
「いや...あの...先輩...」
海堂はしどろもどろになりながら必死で状況を理解しようとしている。
(俺は結婚するのか?!先輩と?)
「もうじれったいね、海堂。はい、ペン持って」
そう言って乾は海堂にペンを持たせる。
「ここに名前を書くんだよ」
<妻となる者>の所を指差す。
「書いたね?じゃあここにハンコ押して」
思考回路がストップしている海堂は乾が促した場所へポンッとハンコを押した。
「うん、よくできました。じゃあ俺は今から市役所に行ってくるから留守番頼んだよ」
そう言って乾は実に楽しそうに車のキーを指でくるくると回しながら玄関を出た。
海堂の思考が戻り、事の重大さを理解したのはその15分後だったと言う。
「さすがにハワイは熱いね。海堂、ちゃんと日焼けクリーム塗るんだよ」
「ッス...」
なんだかんだ言って乾と結婚してしまった海堂だったが、実はけっこう新婚生活を楽しんでいた。
そして今日から3泊4日、乾の仕事の休暇に合わせて新婚旅行に来た。
場所は乾の強い希望でハワイ。
どうやら乾の頭の中には、ハワイの海の砂浜で海堂と追いかけっこしたり、夕日に向かって「海堂愛してるぞ――!」とか叫んで海堂が夕日以上に顔を真っ赤に染めたり、遠い異国の地で人目をはばからずにイチャイチャしたり(でも日本でもイチャイチャしてる)する計画があるらしい。
そんな乾の計画など露知らず、海堂は初めて来るハワイに胸を躍らせていた。
空港でハワイアンのお姉さんにレイをかけてもらい、いよいよハワイ気分が高まる。
空港からタクシーで10分ほどかかるホテルへ向かう。
乾と海堂が乗ったタクシーの運転手は日本語が堪能で、
「お二人さん新婚かい?この前日本で男同士でも結婚できる制度ができただろ?そのせいか同性の新婚さんが増えてねぇ」
オマエ本当は日本人だろ、と言いたくなるくらい日本語がペラペラな上に日本についても詳しい。
海堂がうさんくさそうにしている横で乾は実にしまりのない顔で
「やっぱり分かっちゃいますか、新婚だってVvこの前籍入れたばっかりなんですよ〜」
と言った。
そこからホテルに着くまでの8分間、乾は海堂がいかに可愛らしいかというのを運転手に話しまくった。
ホテルに着く頃には運転手もかなりうんざりし、乾に手渡されたチップではノロケに付き合わされた割に合わないとすら思ったと言う。
うんざりしたのは海堂も同じなようで。
ホテルに着いてチェックインをし、部屋へ案内されるやいなや、ダブルサイズのベッドに寝転がった。
「海堂〜。着いたとたんいきなり寝るなんてひどいぞ...」
でかい図体で少し拗ねる乾を見て海堂は少し「カワイイな...」と思った。
「でも先輩...今日はもう疲れたっすよ...まだ明日もあるし今日はゆっくり休みましょうよ...」
と海堂はベッドから乾を見上げてそう言った。
乾は海堂が無意識のうちにやる上目遣いに弱かった。
そんな海堂を乾は心底「カワイイ...v」と思った。
「しょうがないな...じゃあ今日は夕食はルームサービスで済まして...明日に備えて早く寝ようか」
乾がそう言っている間にも海堂の大きな瞳はうつろうつろしている。
「ッス...」
と相槌を打つのが精一杯だった。
「でもその前に...」
乾がいたずらっぽく言い、ベッドに肘を着き、目線を海堂に合わせる。
「...?」
海堂は乾が何をしたいのかよく分からず、少し呆けた顔をした。
「海堂Vv新婚さんの決まり事その11。寝る前にはオヤスミのキスをすること」
と言うが早いか、乾は海堂の形の良い唇にチュッと口付けた。まるで子どもがするような軽いキスを。
「はい、海堂も」
と言い、乾は自分の顔を海堂に近づけた。
普段の海堂は乾がこんな行動に出ようものなら烈火のごとく怒り、テニスで鍛えた力わふんだんに生かし、パンチの一発もくらわせてやるところだが...
今の海堂は違った。
半分夢の世界にいる海堂は普段の2.25倍は素直になっていた。
とろんとした瞳で乾に近づき、
「先輩...」
と言って乾にチュッと軽く口付けた。
...ぶっちゃけ、乾は鼻血が出そうだったと言う。
「海堂...いや、薫。好きだよ」
普段の素直じゃない海堂も今の素直な海堂も両方乾には愛しかった。
「先輩...俺も...」
そう言って海堂は乾の首に腕を巻きつけ、キスをねだった。
そうしてだんだんふたりの口付けは深くなり、ハネムーンの初夜は熱く過ぎていった。
その翌朝はいつもの海堂に戻っていた。
「オラッ!起きろ!!」
乾の布団をひっぺがし、足蹴りを入れる。
もともと寝起きの悪い乾はこうして少々乱暴に海堂に起こされるのが日課となっていた。
「んー...おはよう、薫」
メガネのかけていない顔で海堂ににっこりと微笑みかける。
その乾の顔に海堂は思わずドキリとした。
海堂は口が裂けても言わないが、乾のメガネのない顔に弱かった。特に寝起きの無防備な顔。
赤くなりかける顔をバッと逸らし、
「と...とっとと飯食いに行きますよ!」
と言って照れ隠しをした。
食事を摂ったあと、ふたりはホテルの前にあるビーチへ出かけた。
海と言えばもちろん水着。
乾はデレデレとした顔で海堂の水着姿に見惚れていた。
「うん、薫。カワイイカワイイ」
「う...うるさいっすよ。あんまりジロジロ見ないでください...」
顔を真っ赤にして海堂は目線を逸らした。
(やっぱ先輩...鍛えてるな...)
海堂は海堂で乾の水着姿に見惚れていたのだ。
海堂もそれなりに筋肉はついている方だが、どうにも痩せ型体質のようで、たくましさはいまひとつない。
それに比べ乾はがっちりとした筋肉がバランス良く体全体についている。
このふたりのバカップルは互いが互いに見惚れながら、海で一日過ごした。
その後もスキューバ、ショッピングなどふたりは思いっきりハワイを満喫し、最後の夜を迎えた。
乾と海堂が泊まっているホテルは夜景が美しいと有名な所だった。
海堂が部屋の窓からぼんやりと夜景を見つめていた。
「綺麗だね」
突然の背後からの声に驚き、振り向いたらそこには自分のダンナ様がいた。
「ッス...」
海堂は曖昧に返事をしながらまた夜景を見つめる。
その横に乾がいる。明日も明後日もずっと。
幸せかもしれない、と海堂は思った。
「海堂も綺麗だよ」
ぼんやりしていたところにいきなりの乾の歯の浮くような台詞に思わず
「ば...ばっかじゃねーの?!よくそんなクサイことが言えるっすね...」
と体をのけぞった。
そんな海堂の体を乾はそっと抱きしめる。
「海堂...楽しかった?」
ささやくような乾の言葉に酔いそうになりながら。
「ッス...」
素直じゃない自分の精一杯の返事。
「また来ような。次は金婚式あたりに」
それはこれから先もずっと自分といてくれると言う言葉。
「何年後だよ...」
それでも容易に想像ができる。何十年後かの自分達を。
きっと何度もくだらないケンカをしながら、すれ違いながら、それでも磁石でくっついたようにお互い離れられなくて。
何度も何度も愛の言葉を囁き合うのだろう。
「愛してるよ」
ほら...
「俺もッス...」
今もまた...囁き合ってる。
そうして新婚旅行最後の夜は更けていった。
(おまけ)
――成田空港――
「やっと日本に着いたね」
「疲れた...早く家に帰りてぇ...」
ハワイから日本に降り立った乾と海堂は時差ボケもあってか、少々疲れていた。
そんなふたりのもとに...
「なんや?乾と海堂やん!」
聞き慣れたような聞き慣れないような関西弁が...
「「忍足...」」
ふたり同時にその名を呼んだ。
「奇遇やなぁ!どっか行くん?俺ら今から新婚旅行やねんVv」
その言葉通り、忍足の手には大量の荷物が持たれていたし、その横にはいささかぐったりしている跡部の姿があった。
「俺らは今帰ってきたところなんだ...ところで跡部君、どうしたんだい?すごく疲れてるみたいだけど...?」
乾の問いかけに跡部が重そうに口を開く。
「このバカメガネがよ...昨夜からはしゃいではしゃいでロクに眠らせてくれなかったんだよ...」
「ええやんVv遠足の前の晩は眠れん小学生と同じやって♪」
そう言っている間に搭乗時刻になってしまったので、
「お、もう行かな!じゃあな、乾海さんVv」
(略すなよ...)
と海堂は思ったらしい。
とにもかくにも、200X年4月。同性同士でも結婚ができる制度が可決された。
これにより1年間で948組の同性同士のカップルが結婚したらしい。
乾と海堂も1/948のカップルである。
これから先も末永くお幸せに...
END
(あとがき)
30000ヒットのリク、「乾海で新婚旅行ネタ」です。リクをして下さったミミ様、ありがとうございました!そして...
遅くなりすぎて申し訳ありません!!
もうホントに私は...自己嫌悪でいっぱいでございます...。
なんかすごく微妙な出来になってしまった気がしないでもないですが...こんなもんでよかったらもらってやって下さい!
ちなみにタイトルの「HONEYMOON」とは新婚旅行のことです☆
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