モドル?

今の世の中、ケータイを持ってないヤツってのはそうそういない。

だからこそ、みんなやたらケータイだのメールだのにこだわって...


でも考えてみれば親指一本で、しかも1分もあればメールを送ることができる。



それはとても便利なようで...


でも...そんなデジタルな言葉なんて本当はいらない。

        

世は受験の追い込みシーズン真っ盛り。それは青春学園も例外ではなかった。


「おい海堂。乾先輩外部受験するんだろ?」


海堂がランニングを終え、少し休憩をとっているところに桃城がやってきた。


「....それがどうした」


海堂は不機嫌そうに(でもこれが海堂の普通なのだが)受け答えした。


「大変だよな〜。付属に行けばエスカレーターで行けるのにな」


そう言って桃城は去って行った。



海堂高2 乾高3の冬だった。

***

部活も終わり、てくてくと海堂は帰路につく。


その時、制服のポケットに入れた携帯がブルブルと振動し、受信を知らせる。

人付き合いのいい方ではない海堂にメールを送る人物などあまりいない。はっきり言ってしまえばひとりしかいない。


海堂は携帯をパカッと開き、受信したメールを開く。


『部活お疲れ様。オーバーワークはしてないだろうね?あまり無理しないように』


(先輩...)


海堂はメールを読み、それに返信する。


『お疲れ様です。今日もメニュー通りの練習量です。先輩も勉強がんばってください』


簡単な返信をし、そこでメールは終わった。



乾は東京でも有数の○大学を受験するということで、日夜勉強に励んでいた。

青学はエスカレーターで進学できる付属大学があり、大半の生徒はそこに進学をするのだが、外部受験をし別の大学に進学する生徒もいる。

乾のその中のひとりだった。

優秀な乾は内部進学であっさり進学するよりは、自分の力を試す意味でもレベルの高い大学に進学したくなった、と以前言っていたことを海堂は思い出す。


「.....」


海堂は歩きながらうつむいた。

空には夕焼けが広がっており、うつむいた視線の先にはひとつの影。


この影は以前はふたつ並んでいた。


乾の受験が近づくにつれ、乾は学校の補習の他にも塾やら家庭教師やら、とにかく時間がとれなくなっていた。


一緒に帰れなくなり、海堂はその道中がとてもつまらなく感じる。


乾は努力している。自分の目指す目標を掴むために。

海堂は実力があるのにも関わらず、更に努力を重ねる乾を心から尊敬していた。でも...



海堂はもう1度携帯を開く。



そこにはシンプルな待受画面が時間を表示しているだけ。

海堂は携帯を閉じた。




「先輩は...寂しくねぇのかよ...?」




この前先輩の目を見て話したのはいつだったか




海堂はぼんやりとそんなことを思いながら家の門をくぐった。

***

相変わらずメールのやり取り「だけ」はしていた。

最近の部活はどうだとか、勉強ははかどってますかとか...




所詮機械のやり取り。




そこから声の温かみだとか表情の移り変わりなどは感じ取ることもできない。




そして今日は...乾の受験日。




海堂は昨日の夜のうちに「明日がんばって下さい」と短くメールを送った。

乾からは「ありがとう。がんばるよ」と短い返信があった。




海堂はその受信履歴と送信履歴を交互に見ながら、ぽつりとつぶやいた。




「こんなので...何が伝わるんだよ...」



伝えたいことはたくさんあった。


目を見て直接言葉を交わして



こんなにも会えない時間が続くと、まるで勉強と自分の存在を天秤にかけられ、そして自分の存在の方が軽く感じられる。



(バカらしい...)



そもそも今は先輩の進路が決まる大事な時期ではないか。

追い込みシーズンで時間がないことも分かってる。
自分がそばにいても何の役にも立たない、むしろ邪魔になるだけだと分かってる。

大丈夫。
先輩は俺のこと忘れたりしない。今は、今だけは勉強の方が大事なだけ。

大丈夫、大丈夫...



「っく...」



なのに...


大丈夫だと分かってるのに...


「...ッ」




何で涙が出るんだろう...?

***

それから1週間が経った。

相変わらず乾からは音沙汰がない。
会うことはおろか、最近は電話もメールもめっきりなくなった。


そのことが海堂を更に不安にさせるのは十分だった。



海堂は授業中も部活中も上の空で。



(先輩...)



ただぼんやりと景色を眺める。



(なんで連絡がないんだ...?もう試験は終わったはずだから勉強はしなくてもいいだろ...?)



不安になる。不安で不安で押しつぶされそうになる。


...泣きそうになる


空は憎らしいほど青が広がっているのに

海堂の空はどんよりと曇り空だった。

***

海堂の曇り空は部活中でも青空を見せることはなかった。


そんな様子を見てたまらず声をかけた人物がいる。



「よ...よぉ、マムシ!何しけたツラしてんだよ?なんか悩みがあるんなら聞いてやるからよ!」


「桃城...」



いつでもお天気男、桃が海堂の肩に手を置きながら陽気に話しかけた。

それでも海堂の心は晴れない。



「...うるせぇ。手どけろ」



海堂お得意の三白眼で睨みつける。

その態度に桃は心底腹を立てた。



「なんだとマムシ!せっかく俺が心配してやってんのによぉ!あ〜腹立った。こうなったら意地でもそんなしけたツラしてる理由吐いてもらうからな!」



ぎゃいきゃいと叫び、桃は海堂の胸倉をつかんだ。


「離せ...!」


海堂が抵抗しようとしたまさにその瞬間。










「海堂に気安く触らないでほしいね、桃」











フェンスの向こうから聞こえてきた声。海堂がずっと聞きたかった声。



「え?乾先輩?!」



桃が驚いて間抜けな声を出す。



「先輩...」



海堂は大きな目を更に大きく見開いてそう言うのが精一杯で。



「桃、手」



乾は短く言葉を放ち、海堂の胸倉をつかんでいる桃の手を指差した。


「あ...」


桃はバツが悪そうに海堂から手をぱっと放す。



乾はそれを確認すると、フェンスのドアをくぐり、



「じゃあちょっと海堂借りるから」



と言って海堂の腕をつかみ、裏庭の方へ消えて行った。

海堂はただ呆然としてその腕の導かれるままに足を動かした。




残された桃は呆然となりながらも、ハッと我に返り、フッとため息まじりに笑った。


「やっぱ乾先輩か...かなわねーな、かなわねーよ」




そんな桃の様子を見て、越前がにやっと笑い、

「まだまだだね」

と小さくつぶやいた。

***

海堂は腕を引きずられながらただ機械的に足を動かしていた。


引っ張られた腕が痛いとか  乾先輩はどこに行くんだろうとか  行き先も告げないで勝手に部活を抜けさせてとか


そんなことはどうてもよかった。


だって顔が見れた。声が聞けた。

今触れてくれてる。かすかに先輩の温もりを感じる。



裏庭まで来ると、乾はぴたりと足を止めた。


そしてくるりと海堂の方へ顔を向ける。



「久しぶりだね」



その唇に微笑みの形を作りながら乾は穏やかに言った。


「あ...」



海堂も何かを言おうとして...



「泣くほど俺に会いたかった?」



何も言えず、泣いてしまっていた。



「ッス...」


「泣くほど会いたかった?」という乾の少々自惚れた質問を、海堂は素直に肯定する。



(だって会いたかった...)



言葉を発するよりも先に泣いてしまうほど。



乾は優しい笑みを絶やすこと無く、ただ泣きじゃくる海堂をそっと包んだ。



「俺も会いたかったよ」



会いたかった。本当に。
海堂が部活の途中なのに、連れ去ってしまうほど。


乾は海堂の背中をぽんぽんと、まるで子供をあやすかのように叩いた。


その優しい振動が、包み込んでくれる乾の温もりが

海堂の全てを安心させる。



「なんで...会いに来てくれなかったんすか...?」



海堂は少し安心し、冷静になったのか、乾に問いかけた。

今までの全ての不安をの答えを教えて欲しい。


そんな海堂の問いに乾は海堂を抱きしめながら答える。




「『海堂断ち』だよ」




「...は?」


乾の意味不明な答えに海堂は顔を上げ、実に間抜けな声を出した。



そんな海堂の様子を愛しそうに見ながら、乾は言葉を続ける。



「だから。『海堂断ち』。知らないか?目標を達成するために自分の一番好きなものを目標達成まで断つこと。例えば甘い物が一番好きな人は、目標達成するまで甘い物を食べないとかね。俺は海堂が一番好きだから、目標達成するまで海堂を断ったんだよ」



微笑みながら乾が説明するのを聞いて海堂は沸沸と怒りが沸いてきた。


「...なんだよそれ。そんなの勝手に決めんなよ!俺がどんだけ淋しかっ...」


「ごめん」



海堂の言葉が終わるか終わらないかのところで乾が言葉を遮る。



「でも海堂。海堂と会ったりするとすぐ気持ちが海堂に行っちゃうんだよ。勉強なんかどうでもよくなるくらいね。俺は意思が弱いからな。一番好きなものは遠ざけないと我慢できないんだよ。ごめんな...」



乾は真剣な顔で海堂に謝り続けた。


海堂はそんな乾に対し、怒り半面、嬉しさ反面だった。

だって...乾の「一番好きなもの」は...自分なのだから。



「...もういいっすよ先輩。ところで...俺に淋しい思いさせてまで俺を断ったんだから...当然目標達成できたんだろうな...?」



海堂の問いに乾はにやっと笑い、ひらひらと受験票を見せた。


「当然だろ。今日結果発表でね。12XX番。確かに確認してきたよ」



(それ聞いて安心した...)




やっと言える。

文字じゃない自分の言葉で。







「おめでとうこざいます、先輩...」







「ありがとう」






二人をしばらく見つめ合った後、何週間、何ヶ月ぶりのキスを交わした。










世の中親指一本で、しかも1分とかからずメールを送れる。

それはとても便利なようで...


でもそんなデジタルな言葉なんかいらない。




一番欲しいのは...

あなたをそばで感じながら聞くあなたの声。


今、手に入れた。

END




(あとがき)
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!はずかC〜!でもはずかしがってる割に大したもん書いてねぇ!
麿樹様すいません、こんなのしか書けない私で...
リクは「やたらかっこいい乾と激乙女海堂」でした。乾別にこれと言ってかっこよくないし、海堂も別に乙女じゃないし...
とにかく麿樹様が受験ということで、応援の意味も兼ねて受験ネタにしてみたんですが...
すみません麿樹様...麿樹様の受験までに書こうと思っていたのに間に合いませんでした...!もうあたしなんか死んでしまえ!
こんなものですが、どうぞお収めください!!

杉本レナ
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