この世の全ての想いが対になればいい。


例えば、自分より頭ひとつ分大きい黒髪の関西弁が心地よく聞こえるとき。
チャイムが鳴ると同時に屋上へ駆け上がる日常。
得意なテニスを思う存分することができる毎日。
隣にいつもアイツがいること。


こういう日々の単純な出来事が「幸せ」というのだ、と気づけるようになったのはいつのことだっただろう。


  


夏の終わりで秋の涼しさが混ざり、とても穏やかな風の音がする。
いつものムリヤリたたき起こすような目覚まし時計とは違い、それはとても心地よかった。

跡部はふっと目を開いた。
時計を見て、いつもの起床時間をだいぶ過ぎていることに気づき、一瞬焦ったが、すぐに今日は休日だということを思い出す。


(ああ...だからここに...)


いつもと違う天井。
でもそれは決して見慣れていないものではなく。跡部が週末は必ず寝泊まりしている部屋の天井だった。

その部屋の主は...まだ静かに寝息を立てている。
いつもかけているメガネがなく、無防備な寝顔をさらしているせいか、普段より数段子供っぽく見える。
...いや、実際まだ子供なのだが。


跡部は少し考え、起き上がりかけていた体を再びベッドへ戻した。
昨夜は隣で健やかに眠るこの男のせいで、一晩中眠らせてもらうことができなかったから、体中がだるいし、痛い。

何より...起きあがろうとした跡部の手をその男はしっかりと握って眠っていたから、起きたくても起きられなかった。

(ちくしょう...呑気に寝息なんか立てやがって...)

跡部は心の中でそう毒づくと、柔らかい枕にぽすっと頭をダイブさせた。



二人寝ても十分な広さを持つそのキングサイズのベッドは跡部のお気に入りだった。
ただ、この部屋の主は「景ちゃんとくっついて寝たい」と言い、もうワンサイズ小さいベッドを欲しがったのだが、跡部がそれを許さなかった。


でもその大きなベッドを買わせたはいいものの、二人は結局いつの時もぴったりとくっついて寝てしまうので、ベッドの面積は大きく持て余していた。
まさに宝の持ち腐れだ、と跡部は思う。


そんなことをぼんやりと考えながら、跡部は忍足の方へ顔を向けてみた。

普段は大抵忍足の方が先に起きているから、忍足の寝顔を見ることなど滅多にない。

(こいつ...こんな顔してたか...?)


今は閉じられているが、芯の強い光を放つ目。太陽の光があたってもただひたすら黒い髪。すらっとした輪郭。

不覚にも見惚れてしまっている自分がいて、跡部は顔を赤らめた。

そしてなぜか無性に、もっと忍足に近づきたくなった。ベッドの面積なんか関係なしに。


あと10cm...5cm...1cm...


「うわっ?!」


跡部はいきなり腰をつかまれ、言葉を奪われた。
隣で眠る男の唇で。いきなり降ってきた激しいキス。


「んっ...ふ...」

いきなりのことで思考がついていかないが、貪られるようなキスの味は悪くない。

多少酸素不足なのだろうか。それとも、この男への熱にとらわれてしまったのだろうか。
跡部は少し息苦しくなり、頭がぼうっとしてきた。

トロンとしたその瞳と表情はひどく扇情的であることを知るのは忍足ただひとりであり、それを知るのは忍足だけの特権。


「っはぁ...」


ようやく忍足は唇を離し、跡部を解放した。


「て...てめぇ...」


ぎっと跡部が忍足を睨む。
でも、そんな潤んだ瞳で。頬を赤く染めて。そんな顔で睨んでも少しも怖くない。
そう忍足は苦笑する。


「おはよおさん、景ちゃんv」


朝の始まりは挨拶から。そう実家で仕込まれてきた忍足はどんな状況でも挨拶を忘れない。

そう。それがたとえ愛しの恋人が今にも噴火しそうに怒っていても。

「いきなり何すんだよ?!」

烈火のごとく怒り、今にも飛びかからん勢いの跡部を尻目に、忍足はニコニコしている。

「いや...景ちゃんはほんまかわええなぁ」

いきなりの「かわいい」宣言。

「は...?」

怒りに満ちた跡部の顔も悪くはないが、呆気にとられた跡部の顔はもっと悪くない。

忍足は尚もニコニコしながら話を続ける。

「やって景ちゃん、今俺にキスしようとしたやろ?ほんまは景ちゃんがキスしてくれるまで待とうと思ったんやけど...
あんまりカワエエから我慢できへんかったわ」


瞬間、跡部の顔がボッと火を吹いたように赤くなる。

反論をしたいが、忍足の言ったことは何ひとつ間違っていないので、反論もできない。
こういうバカ正直な反応しか示すことのできない跡部は、ただ黙って忍足の次の言葉を待つしかなかった。


だが、次の言葉はなかなか出てこない。

かわりに...

「んっ...」


今度は先ほどとはまた違う、優しい、それでいて何を言わせないような...そんなキスが降ってきた。


そしてしばらくして、名残惜しいそうに、互いの唇が離れた。


「景ちゃん...体、きつくないか...?」


優しい優しい声で忍足が問う。

さっきまでは、このダルさの原因は全てこの男のせいだ、こいつが起きたらこれでもかと言うくらいに罵ってやろう。
そう思っていた跡部だったが。


(反則だろ...)


こんな優しい顔で。こんな優しい声で。こんな優しい腕で。
自分を全て包み込んだら...何もかも許してしまう気になって...何も言えない。

跡部は、何も言わずただ忍足の腕の中で忍足の鼓動を感じていた。

時折、自分の髪を撫でる手も心地よくて。

しまいにはその心地よさにうとうとしてきた。


「今日は部活もないし...もおちょい寝てような...」


忍足のその言葉に跡部は小さく頷き、そっとその蒼い瞳を閉じた。








部活のない日曜日にいつもより朝寝坊するという、何気ない日常。

それを幸せだと思えることができるようになったのはいつのことだっただろう?

それは考えるまでもなく、今隣で眠る人物に出会ってから...

いつも一緒にいるのに。
夢の中でも一緒にいたいと思う自分は贅沢なのだろうか。


そんなことを思いながら、柔らかい陽射しが降り注ぐ中...


忍足の腕の中という最高のゆりかごの中で
跡部というお姫様は幸せな眠りにつく...

END
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(あとがき)
17000ヒットのリク、「忍跡で甘甘」です。
えーっと...こんなもんしか書けなくてすいません!!(とりあえず土下座)
私、甘甘書いたことないんですよ...(言い訳)。
「これ...甘甘になってんのかな...?」と常に頭の中にはクエスチョンマークが飛んでました。

リクをしてくださったユダ様、こんなものでよかったらもらってやって下さい(T_T)。
それと、リクをして下さってありがとうございました!!!
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